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第四節 生態系『水田と水路』の動物

 水田や水路で生活をしてきた野生動物は、稲作の作業サイクルに適応しながら生活をしている。稲作では、耕起→代掻き→苗植え→中干し→稲刈りのサイクルに応じて、いろいろな動物が出入りする。しかし、農薬、圃場(ほじょう)整備、減反の影響によって動物は激減し、安住の地ではない。


一 水田の動物、今は昔

 弥生時代より水稲の開田が進む中、沼・湿原・小川で生活していたカエルやイモリ、魚類、昆虫などが生活場所としてたくさん集まってきた。また、これらを餌にするヘビやトカゲなどの爬虫類、サギやカラスなどの鳥類、キツネ・タヌキ・イタチ・アナグマなどの哺乳動物が餌場として訪れ、水田は多種多様な動物の生活場所となっていった。
 人々にとっても、水田の魚貝採りは楽しみのひとつであった。水田の中干しをする八月、水口(入水口)や水代(排水口)に筌をつけておくと、フナ・ドジョウ・ナマズ・ヨシノボリ・ドンコ・タナゴ類・ギギ・コイ・ウナギも取れていた。田んぼの代表であったタニシは、水田の中干しの頃には大きく育ち、人々はいろんな料理法で食を楽しんでいた。


二 水田・水路の環境変化と動物

 平野部の水田に、普通に居たトノサマガエルが減少し始めて、気がつけば完全に姿を消していた。魚毒性農薬の使用や、オゾンホールの破壊による紫外線の増量、圃場整備等が連続した時期と一致する。さらに、減反があるので、動物が多種にわたって住めなくなっている。
 現在の水路は、圃場整備によって、水路は用水路と排水路に分けられている。排水路が下方で用水路の役割を持つことはある。用水路は水田に水を運び、排水路は水田で役割を終えた水を川へ運ぶ。その両者の高低の段差は大きく、連結していない構造になっている。そのため、川から遡上してくる魚類や甲殻類が、水田に入って行くことはできない。大雨による増水で入ったとしても水田の餌は僅かで生活できない。排水路は用水路に比べて深いので、湧き水や滲み出した水もあり、最近はタニシのほか各種の動物が復活を始めている。

* 魚毒性農薬
 殺虫剤と除草剤がある。魚介類を消滅させ、川に流出してその毒性は衰えることが無い。

* 圃場整備
 米の生産量の増大と労働力の軽減のため、農作業の機械化に伴う耕地区画の整備・三面コンクリート張りの用排水路の整備・土層改良・農道の整備で、安全性や効率化を目的として、昭和四十年代後半から実施された事業である。その事業期間は、旧三輪町では昭和四十六年度から昭和五十八年度までの一三年間、旧夜須町では昭和五十二年度から平成十一年度までの二三年間となっている。この圃場整備事業によって、曲がりの多かった水路や小規模の川は、位置を変え直線的になった。当然のように、岸辺に生えていた木や竹類は消滅した。

ヘビやトカゲが水田から消えた
 現在、山間や山麓から離れた平野部の水田では、ヘビやトカゲを見ることが少ない。以前は、畦(あぜ)を歩くと必ずヤマカガシがいた。カエルと対峙(たいじ)して両者寸分も動かない様子や、カエルを頭から呑み込んでいる様子も良く見られた。畦の草を鎌で刈るとき、マムシに手を噛まれて大きく腫れた話もよく聞いたものである。今回、平野部での水田調査で、ヤマカガシに出くわすことは一度も無かった。ヘビがいなくなった原因を、水田の持ち主に尋ねると、
 @農薬でカエルなどの餌が激減した。
 A畦の除草は鎌から機械になり、多くのヘビが死んでいった。
 B圃場整備で石垣が無くなった。
などである。
 この中で最も大きな原因はBが考えられる。産卵・休息・天敵から身を守る等の役割をもつ石垣が無くなり、@とAも加わり生活ができなくなったと考えられる。


三 水田に住む生きた化石

 原始的な体で、長期間乾燥に強い耐久卵を持ち、生きた化石と言われる三種、カブトエビ・ホウネンエビ・カイエビを町内の水田で確認できた。いずれも、カニやエビと同じ甲殻類の仲間である。どの水田にもいるわけではないが、筑前町東部から西部まで満遍なく分布している。

◆カブトエビ 体長三cm(カブトエビ科)
 海で生息する国の天然記念物「カブトガニ」と体形が似ている。大量に発生するので、水田をかき回すような動きで除草の役割をしている。アマサギが約二秒に一回の割合で、頭を上下させながら食べ続けているのは、主にこのカブトエビとオタマジャクシである。

カブトエビ(当所)

◆ホウネンエビ 体長二cm(ホウネンエビ科)
 名の由来は、多く発生すると豊年になることから由来している。体のつくりは複雑で、色彩もきれいで変化があり、腹部を上にして泳ぐ。この特徴的な生き物は、 観賞用として楽しむこともできる。

ホウネンエビ(砥上)

◆カイエビ 体長一cm(カイエビ科)
 アサリのような二枚貝形の薄い甲羅に覆われて、その間から多くの脚を出して泳ぐ。前二種ほど目立たないので、注意深く探す必要がある。

カイエビ(砥上)


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