第五節 生態系『草原』の動物
本町草原の代表は、三箇山と櫛木にある規模の大きい夜須高原である。次いで、砥上岳と目配山にある小規模な草原が挙げられる。さらには、ため池や川の堤防、水田や畑の土手、路傍の草原がある。草原は、共通してイネ科植物を主体に、標高などに応じた草本植物で形成されている。これらの植物を好む第一次消費者の動物を起点に生態系を形成する。樹木はあっても低木で数は少ない。
一 夜須高原
カヤ類やササ類が多い。二月に野焼きが行われ、草原の維持が保たれている。しかし、近年は、人手不足で野焼きが行われていない部分も多くなっている。その場所では、雑木が年々増え大きく成長している。野焼きが行われる場所では、特に動物の種類と個体数は少ない。
夜須高原
観察できるのが、ホオジロ・ハシボソガラス・ハシブトガラス・カワラヒワである。この四種に加え、夏はカヤ類の場所で営巣をするセッカを、冬期はミヤマホオジロ・ジョウビタキ・カシラダカなどの野鳥が見られる。野鳥にとっての草原は、周囲の林から林への移動空間であり、カップル誕生や子育てのための餌場となっている。三箇山・櫛木は、夏鳥のカッコウの渡りの中継場所になっている。
ミヤマホオジロ♂
イネ科やササ類の植物を幼虫が餌とするバッタ科のトノサマバッタ・クルマバッタ・ツチイナゴ・ショウリョウバッタ・ショウリョウバッタモドキ・オンブバッタ・イナゴモドキ・ツマグロバッタ・セグロバッタ・イボバッタ・ヒシバッタ・ハネナガヒシバッタ。
トノサマバッタ
ツチイナゴ
いろいろな幼虫を餌とするキリギリス科のニシキリギリス・クツワムシ・カヤキリ・クサキリ・ホシササキリ・オナガササキリ・ウマオイ・サトクダマキモドキ、草の実を餌とするクビキリギスなどがいる。コオロギ科ではエンマコオロギ・スズムシ・マツムシ・マダラスズ・クサヒバリ・ケラ等である。チョウ類ではセセリチョウ科やジャノメチョウ亜科が多い。
クサキリ
夜須高原では、イノシシの通り道や休む場所がある。シカの糞をよく見かけるので、シカの通り道や餌場にもなっている。野焼きをしていない樹木の多い場所でテンを見かける。
野焼きをしている場所で、骨格だけになったタヌキの死骸に遭遇した。
◆ジャノメチョウ(ジャノメチョウ科)【準絶】
特筆できるのは、涼しい高原で見ることができるジャノメチョウが多いことである。特に、夜須高原青少年自然の家の「わんぱくやぐら」周辺の、クヌギがある草原で容易に探すことができる。この蝶の幼虫は、ススキやスゲなどを食草としている。一見、目立つ模様もなく、蛾のようにも見えるが、翅裏は黒褐色を主体に微妙に変化する色光を放ち、神秘さを感じる色調と紋様をしている。
ジャノメチョウ
ジャノメチョウ(翅裏)
◆ヒョウモン類
ヒョウモン類の種数は、食草のスミレを草原に多く見かけるものの、少なくなっている。その中で、三箇山と櫛木では草原近くにあるネズミモチの花に、ミドリヒョウモンがよく訪れている。また、ヒメジョオンの花で、絶滅危惧U類のメスグロヒョウモンを確認できたことは貴重である。
メスグロヒョウモン♂
◆カッコウ(カッコウ科)
主としてまばらな樹木林に止まり、開けた草原も含めて昆虫の幼虫・成虫を捕食する。筑前町では、五月中・下旬頃、海抜の高い涼しいこの地を好み数日間滞在する。鳴き声はクワッコウーでなんとなくのどかで神秘さも感じるが、他種の鳥の巣に託卵することではずる賢い鳥である。同じく託卵する鳥で、夏鳥のホトトギスも良く見かける。ホトトギスの生活範囲は広く、山麓の丘陵や水田地帯で良く見かける。
生息環境がホトトギスとよく似た夏鳥のヨタカ【絶T】は、山麓地帯の水田周辺で鳴き声を聞くことができる。水田に昆虫類が多かった頃は、平野部の水田でも、夕方からキョッキョッキョッキョッ…と長く鳴き始め、夜を通して鳴いていた。
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