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三 魚類今昔

 草場川・曽根田川・山家川・櫛木川・三箇山川で調査(採集・聞き取り)を実施した。過去に生息していた種・近年新たに生息した種・過去から現在も生息している種を合わせると二八種類となっている。ただし、ため池に生息しているタナゴ類・モロコ類を詳細に調査すれば、一〇種前後の種が加わることになるのではないかと推定している。
 川の水質が良くなってきている現在、今回の調査で準絶滅危惧に指定されているカジカが、曽根田川上流域と三並川の上流域の二か所で生き続けていることが確認できた。しかし、昔は普通に見られていたアカザ・アユ・ギギ・スズキ(セイゴ)・スナヤツメ・ニホンウナギなどの魚は、今回の調査(採集・聞き取り)では確認することができなかった。その要因は魚種によって異なるが、水量の減少・魚毒性化学物質の混入・魚類の生態に合わない川岸と井堰の構造の変化等が考えられる。

〔文中表記説明〕
 *本町での呼称を( )内にひらがな・漢字で表記
 *大きさ(cm)は、自然界での最大成長
 *和名アイウエオ順で記載
 *【 】は、福岡県絶滅危惧カテゴリーの略語

◆アカザ(ぎゅうぎゅうた)九cm(アカザ科)【絶U】
 今回の調査では確認できなかった。体表は赤味がありヌルヌルしている。背びれに毒をもつ刺条が一本あり刺されると非常に痛い。

◆アブラボテ 七a(タナゴ亜科)【準絶】
 タナゴ類では珍しく地味な色である。澄んだ水が緩やかに流れる所に多いので、生息しているため池もある。井堰など、流れの緩やかな場所や淵に生息している。◆アユ 三〇a(キュウリウオ科) スイカのような匂いがする。昔はハヤを小さな丸い網で取るときに、一〇a未満の稚アユが一緒に取れていた。現在は、遡上が妨げられる構造の井堰造成で、本町の川では見ることができなくなった。

アブラボテの幼魚(草場川)
◆イトモロコ 六a(コイ科)
 小さな群れをつくって水面を泳ぐ。比較的流れの緩やかなところに生息する。雑魚として他の魚と一緒に煮て食べていた。小型の水生昆虫や藻に着く藻類などを食べる。

◆オイカワ(しらはや、あさじ、♂やけん) 一五a(コイ科)
 川の幸の代表として釣り人に人気がある。オスの婚姻色は、顔周辺に黒い幾つもの突起が目立つ(そのため野犬か?)。体側のピンクと青色、朱線の入ったヒレなど独特の美しさがある。石にいる川虫や石に生えた藻類を食べるので瀬に多い。この時、体が光を反射し白く光る。

オイカワ(山家川)
◆オヤニラミ(ぎしにらみ、ぎしねらみ) 一五a(ケツギョ科)【準絶】
 姿や配色が熱帯魚のような感じを受ける。水質汚染に弱い。以前は本町のどの川でも、体長約一五aの大きさのものもよく見かけられ、その姿に恐ろしさを感じていたという。草場川の弥永や奈良、曽根田川の玉虫では再び体長三〜五aのものが見られる。

◆カジカ 一五a(カジカ科)【準絶】
 水温が低い清流に住み、水質汚染と水温上昇に弱い。今回、曽根田川の上流域(本流上曽根田と支流の三並川上流域)で確認できた。

カジカ(三並川)
◆カマツカ(かまづこ) 二〇a(コイ科)
 どの川にも多く生息している。石陰や砂に潜り、上から流れてくる昆虫などを食べる。身が引き締まって美味しい川の幸で、煮魚、塩焼き、大きいものは刺身として食べる。

カマツカ(山家川)
◆カワムツ(やんぶし) 一五a(コイ科)
 川面に近い場所を泳ぎ、水面を流れてくる虫などを捕食する。オスの婚姻色は太い青線、黄色のひれ、柿色、黒など、色彩が豊かで美しい。流れが緩やかになっている場所に多く、よく釣れる魚である。

婚姻色のカワムツ♂(山家川)


カワムツ♀(山家川)
◆カワヨシノボリ(おろのこ、おろろんこ、いしんかち、ごり) 六a(ヨシノボリ属)
 山奥の渓流域まで遡上する。七月孵化した稚魚が町内のどの水路でも、遡上している群れを見かける。この魚の漁法が「ご り押し」の語源となった。唐揚げや佃煮にする料理は知名度が高い。

カワヨシノボリ(曽根田川)
◆ギギ(ぎゅうぎゅう) 三〇a(ギギ科)【準絶】
 ギギ科の中では特に大きい。今回は確認できなかった。背びれにある刺(一本)で刺されて、痛い目にあった経験者は多い。

◆ギンブナ 三〇a(コイ科)
 ギンブナは、中流域と下流域に多い。白っぽい色と金色がかったものがいる。背越し、素切り、刺身、煮魚として好まれている。昔は、秋に他の魚も一緒に串に刺し、炭火で焙ったものをワラ束に刺し屋内に下げていた。それを正月料理や保存食として使っていた。

ギンブナ(山家川 朝日)
◆コイ 一〇〇a前後(コイ科)
 ため池で育ったコイが、池干しのときに川へ移るものがよく見受けられる。調査で捕獲した大きなコイは、体長が六五aもあった。リリースをする。山家川の間片橋上方では、ヨシが多い川幅一・五bの水流が速い予想外の場所に、約三〇aのコイが六匹群れで生息していた。

コイ 65p(依井 奈良)
◆シマドジョウ 一二cm(ドジョウ科)
 透明感のあるドジョウで、砂地を好む。体の色と砂地の色が紛らわしく見つけにくい。特に、砂地に潜っている時はなおさらである。岸辺の砂地をタモで掬うと取れる。

◆スズキ(セイゴ) 一五cm(スズキ科)
 過去、曽根田川で一五cm位のセイゴが釣れていたが、一般にはあまり知られていない。スズキは出世魚と言われ、セイゴは三〇cm以下の幼魚である。現在、筑後川中流域では確認されるが、本町では確認されない。

◆スナヤツメ(八目、八目うなぎ)一七cm(ヤツメウナギ科)【絶T】
原始的な体をしている。以前、草場川奈良の深みのある場所には、五、六匹の群れのスナヤツメがよく見られたという。ドジョウと一緒に居ることも。草場川の下流域では確認可能な種である。

◆タイワンドジョウ(雷魚) 六〇cm(タイワンドジョウ科)
 成魚は食物連鎖の頂点的存在で、タイワンドジョウがいることは水生動物が豊かであることを示す。田屋橋の下の淵でよく見かける。甘辛い醤油煮は美味、刺身では顎口虫症になる危険性があり、腸管出血、腸閉塞、心筋梗塞が報告されている。明治三十九年、台湾から日本に移入された。

タイワンドジョウ(草場川 四三嶋)
◆タカハヤ(あぶらめ、あぶらばや) 一〇cm(コイ科)
 清水で比較的水温の低い水域に生息する。櫛木や三箇山、山家川の町内最上部、曽根田川の上流域や三並川で見られる。草場川の上流域奈良では最近増えつつある。体表はうろこが細かく触るとぬるぬるしている。

タカハヤ(山家川)
◆ツチフキ(本町の呼称は無い) 八cm(コイ科)【準絶】
 カマツカ(かまずこ)に酷似しているので、この魚の存在に気付かない人が多い。草場川の下流域でよく見かけるが、カマツカと並べて比較すればよくわかる。背びれは、カマツカは角ばった形で、ツチフキは丸みがある。

ツチフキ(四三嶋)
◆ドジョウ(きねどじょう) 二〇cm(ドジョウ科)【絶U】
 水田では、簡単に見ることができなくなっている。たまに、水路の溜マスで越冬している。川やため池で命を繋いでいる。きねどじょうは、一〇年近く生きて大きく成長したドジョウである。

ドジョウ(草場川)
◆ドンコ(どんぽ、どんかち) 三〇cm(ドンコ科)
 すべての川で確認できる。特に中流域と下流域に多いが、上流域の小さな川でも見かける。大きいものは塩焼き、煮付けが旨い。「石垣どんぽ面出すな、面出しゃ釣られる、釣られ損」と本町で歌われている。

ドンコ(曽根田川)
◆ナマズ 六〇cm(ナマズ科)
 タイワンドジョウと同じで、ナマズが多いところは生物が豊かな証でもある。幼魚が、梅雨時の増水した流れを、群れで遡上しているのが良く観察される。捕獲した数匹を一つの容器に入れておくと、一番弱いものが尾付近から傷つけられ次第に食べられていく。味噌汁・煮付け・塩焼き・蒲焼きなど、いずれも大変美味しく食マニアも多い。

ナマズ(曽根田川)
◆ニホンウナギ 一〇〇cm(ウナギ科)【絶T】
 ウナギは、上流へ上流へと、限りなく遡上できる所まで遡上する習性がある。雨の日は道路でも上る。小さい溝でも穴があれば住み着く。昔は、三並川の黒岩にある滝で行き止まりとなり、そこで大きなウナギが取れていた。

◆ヘラブナ 四〇cm(コイ科)
 以前は居なかったヘラブナが、草場川下流に近年増えてきた。体は幅広く、背びれ先端の背が盛り上がっている。ヘラブナは、大きく引きも強いので釣りの対象となっている。釣り上げたものは、リリースを行っている。食することもできる。

◆ムギツク 一〇cm(コイ科)
 カワムツの幼魚となんとなく似ているが、体形と模様の違いで、気をつけて見れば区別できる。やや深みのあるゆるやかな流れの場所で、川底にいる虫などを口先でつつきながら捕食する。

ムギツク(草場川 奈良)
◆メダカ 四cm(メダカ科)【準絶】
 以前、草場川では水が湧いて深みのある溜りの場所に群れをなしていたが、圃場整備後はそのような環境が無くなり、メダカを見かけなくなった。現在は、水質も生息可能な状況に回復してきたので、本町の川でも多く見かけるようになっている。

メダカ(草場川 四三嶋)
◆モツゴ(すじばや) 八cm(コイ科)
 流れのゆるやかな場所で生活する。体側に明瞭な黒い縦状の線が入る。牟田川を利用して造成した深沼旧池にも多く、池干し時には大量のモツゴが川へ流出している。

モツゴ(草場川 四三嶋)
◆ヤマトシマドジョウ 一二cm(ドジョウ科)【準絶】
 体は全体的に淡褐色をして、体側中央線に暗褐色の斑紋がたくさんある。砂地を好み冬は砂の中に潜り越冬する。シマドジョウによく類似しているが、図鑑で体側の斑紋の形状を比較すると違いが分かりやすい。

ヤマトシマドジョウ(草場川 四三嶋)

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