四 川の水質の変遷
本町の水質汚染真っただ中の状況が、前回の町史に次のように記載されている。『夜須町史』(平成三年三月発行)には、「住宅化が進み河川も次第に汚染され、魚の住めない河川が増加している。」「ホタルは農薬や洗剤による河川の汚染がひどく、絶滅に近いほど少なくなっている。」、
『三輪町史』(平成十三年四月発行)にも「魚の棲めない状況が進み、水生動物が生きていけないほど水質汚染が深刻である。」と記述されている。
今回の調査では、「近年ホタルが多くなってきた」「シジミが多くなった」「エビも増えている」「川や水路の水がとてもきれいになった」と言う声を、町内の何処に行っても聞く。人々は、水質の良し悪しを水の汚濁の様子や目につきやすいホタル・魚介類などの個体数や種数の増減で感じ取っている。小動物や人間に害を及ぼすことがないかどうかは、見た目では分からない水もあるので、水生動物の種数や個体数、奇形の状況に視点を置くことは重要である。
そこで、きれいな水に生息し、水質悪化に大変敏感なナミウズムシ(プラナリア)の生息状況調査を、草場川、曽根田川、山家川で行った。平成二十五年五月十七日と二十三日の二日間実施した。水質の状況をナミウズムシ一種のみで行うのは確実性に欠けるが、敢えて目安として取り上げた。調査の結果は、ナミウズムシは全域で確認され、水生の動物が繁殖できる状態に水質改善が進んでいる様子がうかがえる。別種のアメリカツノウズムシも生息している。この種は、水温が高く水質が悪くても生息できるが、比較的きれいな水にも生息している。
ナミウズムシ(プラナリア)
●草場川
上流域:松川原橋上(多)
中流域:松原橋上(多)
下流域:安田橋下(少)
●曽根田川
上流域:一反田橋上(少)
中流域:玉虫橋上(少)
下流域:東小田橋下(多)
●山家川
中流域:間片橋上(多)
下流域:調査不能
曽根田川上流域・中流域で少ない理由は、川底は真砂土が多く、ウズムシの餌になる小動物やその死骸が少ないからと推察している。
この調査時に、以前は絶滅の状況であったミナミヌマエビが、草場川下流域の四三嶋で、スジエビと共に大量に採集されたときは、「川の水質が良くなっている!」ことを改めて実感した。
町の人々は、近年ホタルが増えてきた要因を、「下水道設備の充実で、家庭の生活排水の川への流れ込みが無くなっているから。」と捉えている。その裏付けとして、町の下水道事業の実施状況について調べてみた。農業集落排水事業(旧三輪町 平成三〜六年度)、単独公共下水道事業(旧三輪町 平成五〜二十一年度)、流域関連公共下水道事業(旧夜須町 平成七〜二十五年度)の三事業が実施され、本町全体の汚水処理人口普及率は平成二十五年度末現在で九九・八lとなっている。この排水処理事業は、約二二年間で整備され、汚染物質の川への流入は激減していることが理解できる。
また、農薬取締法が昭和二十三年に制定され、その後幾度となく改善勧告が出されてきた中で、平成十四・十五年には、無登録農薬や販売禁止農薬が販売された場合、販売者に回収を命じることのできる規定、農薬登録のない除草剤は「農薬として使うことはできない」との表示を義務づける規定が設けられた。これらに対する改善勧告に従わなかった場合、「三年以下の懲役もしくは一〇〇万円以下の罰金、場合によっては両方」が科される。その後、平成十六・十七・二十二・二十六年と次々に告示改正がなされていることも大きな要因である。さらに、生き物に大きく悪影響を及ぼす化学物質が極めて少ない水を、江川ダム・寺内ダムから農業用水として多く利用するようになっていることも大きい。